「代筆」について深く考えさせられる映画


スピーチライターの近藤圭太です。

「考えがまとまらない」

スピーチの代筆業者である私が、おそらく一番多くお客様から伺ったフレーズがこの言葉です。

しかし多くの場合、以下のプロセスを経ることによって、「最良の決断」をしていただくことが可能です。

【対話により考えを整理する】→【文章のご提案】→【修正】→【決断】

私がお客様と行う上記のやり取りですが、トップの意を受けた組織においても、似たようなプロセスによりスピーチを考えることがあります。

【A.トップによる方向性の指示】→【B.スタッフによる議論、内容の検討】→【C.原案の作成】→【D.トップによる修正の指示】→【E.修正原稿の作成】→【F.決断】

今回、ご紹介するこの映画、

「日本のいちばん長い日」は、

昭和二十年八月十五日、昭和天皇自らが、国民そして、全世界に向けて語りかけた一つの文章

「大東亜戦争終結ノ詔書(いわゆる『玉音放送』の原稿)」をめぐる物語です。

言い換えれば、上記の【A】~【F】を時間軸にしながら繰り広げられる人間模様と決断を描いた映画になります。

戦争終結を決断された昭和天皇の思いが根本にあるとはいえ、
文章の内容を巡って、三船敏郎演ずる阿南陸軍大臣と、山村聡の米内海軍大臣の意見は対立します。

手続きが遅れれば、終戦に反対する軍部の暴発を招きかねない状況下にあって、
一刻の猶予も許されない緊迫感は、鬼気迫る物を感じさせました。

下手をすれば、自らの命も奪われかねない情勢で、阿南陸軍大臣は一喝します。

「(終戦に関して)反対の行動に出ようとするものは、この阿南を斬れ!」

当時の内閣制度は、「軍部大臣現役武官制」といい。

「陸軍大臣や海軍大臣は、現役の軍人でなければならない」というルールがありました。

それを悪用し、組閣の際、大臣を出さない。もしくは、大臣を辞任させ、後継の大臣を出さない。といった手法で、意に沿わない内閣を倒してしまうということが、頻繁にありました。

一見、タカ派的な阿南大臣ですが、そういった諸々の状況を総合的に判断し、最悪の事態(「自分が暗殺され、終戦に関する手続きがストップ」→「本土決戦」→「日本の滅亡」)を回避するための決断力と行動力が、随所に見られます。

一切の閣議や手続きが終わった後に、鈴木首相に対し、丁重に挨拶し辞する場面には、「責任感と潔さ」を強く感じました。

その後、阿南大臣は、陸相官邸で割腹自決するわけですが、自己陶酔や絶望などといった「後ろ向き」な印象は全くありません。なすべきことをやり遂げ、自らの死によって、陸軍暴走への「抑止力」ならんとする。語弊はあるかもしれませんが、「理想的な腹の切り方」といえるかもしれません。

外務省や宮内省の侍従など、事務方の役人も「時間との勝負」に追われます。連合国へのポツダム宣言受諾に関する返電のタイミングを何度も確認するシーン、最終段階で、天皇から修正の指示があり、やむなく清書原稿の上から紙を貼り対応する場面など、

「依頼者の意図を敏感に捉え」

「適切なタイミングでフィードバックし」

「原則から外れない範囲内での決断力も問われる」

こういった代筆業者に問われる実務能力と共通の意識を持った官僚の姿に、強いシンパシーを持ちました。

これ以上のネタバレで、皆さんの鑑賞意欲を削ぐことは、私の本意ではありません。

「平和裏に物事を進める」これが、近藤の思いです(笑)

ぜひ一度、ご覧になってください。


カテゴリー: 雑感 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です